初めて経験した水のトラブル

不動産屋さんに紹介してもらったのは、不動産屋さんが扱う物件の中で家賃が最も安かったワンルームアパート。 築50年以上経っているため、部屋の中を歩いても、廊下や階段を歩いても、床がキーキーと軋む音がする。 学費と生活費を稼がなくてはならないため、アパートに居られる時間は短い。 アルバイトを終えアパートに帰れるのは深夜、床がキーキーしないよう足音をさせず廊下を歩いていると、何か音がする。 他の住人も起きてるのかな? 自分の部屋の前に来ると、先ほどまでの音が大きくなった、なんだろう? 玄関ドアを開けると、音は更に大きくなった。 部屋に誰かいる? スマホの明かりで部屋を照らしても、誰もいない。 もしかして、トイレに誰か隠れてる? 家賃が安いアパートに浴室はなく、人が隠れているならトイレしかない。 恐る恐る部屋に上がると、音は大きくなる。 私、「誰かいるの?」 返事がないため、玄関に置いてあった傘を持って、トイレの扉を開けると 私、「えー!?」 トイレには誰もおらず、聞こえていたのはトイレの水の音だった。 しまった、トイレの水が流れっぱなしだ。 便器のタンクの横に付いているシルバーのレバーを動かしてみると、いつもと感覚が違い、水が止まる気がしない。 不動産屋さんから、「困ったことがあったら、ここに電話して」と言われていた番号に掛けてみたのだが、深夜だと繋がらない。 実家に電話をすると、「元栓を閉めなさい」と言われたのだが、何処に元栓が分からない。 親、「業者さんに来てもらいなさい」 私、「何処の?」 親、「もう大人なんだから自分で探しなさい」 一方的に電話を切られ困っていると 隣の部屋の人、「トイレの水が止まらないんでしょ?」 私、「はい」 隣の人、「・・・」 私、「・・・」 助けてはくれなかった。都会の人は冷たい。 スマホで探した業者さんに来てもらうと、業者さんは勝手知ったるアパートなのか、いとも簡単に元栓を見付けた。 業者さん、「焦ったでしょ?」 私、「はい」 業者さん、「学生さん?」 私、「はい」 業者さん、「自分で学費を稼いでいるの?」 私、「はい」 業者さん、「偉いね」 会話をしていても、業者さんの手が止まることはない。 タンクの中のプラスチック製の浮き輪?が外れていたらしく、その浮き輪が外れると、タンクの満水が分からず水が出っぱなしになるとのこと。 業者さん、「他は大丈夫?」 私、「はい」 トイレが直ると、業者さんは帰ろうとするため、 私、「お金は」 業者さん、「不動産屋さんに請求するから良いよ」 助かった。 それから数日後、今度は手洗いの蛇口が空回りして水が止まらなくなり、同じ業者さんに来てもらった。 都会にも良い人はいた。